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2006年3月31日 (金)

4月から医療費が変わります

咀嚼運動のまとめを書かなければいけないのですが、明日(4月1日)から医療保険の改正(悪?)が行なわれます。我々医療者側には非常に厳しく、煩雑な改正となりました。その対応に追われてなかなかこちらまで手が回りません。すいません。

以前も書きましたが、医療費の高騰で保険財政がパンクすると言われています。そのため、今回もマイナス改訂になっているわけですが、実は医療費が伸びているのは医科の老人医療の分野であって、歯科はここ 10年くらいを見てもほとんど横ばいの状態です。しかし、医療費改正の時は必ず医科と同じ割合の削減を強いられます。この不条理さを一般の方にもぜひわかっていただきたいと思います。

歯科は診断がついた後、ほとんどの場合何らかの処置が伴います。投薬だけで治るものはほとんどありません。つまり、歯科の治療費はそのほとんどが技術料と歯を作る時の材料代で占められています。その割りに、日本の歯科の技術料は非常に低く見積もられています。諸外国の歯科の治療費を聞かれると、たぶんみなさんビックリされると思います。そのせいもあって、外国では歯を悪くいしないように予防が進んでいるという側面もあります。

しかも、今回は点数削減に加えて、やたらとカルテや患者様向けの文書発行など膨大なデスクワークを義務化されました。厚生省が要求するとおりにきちんとやるためには、我々の仕事の多分6~7割はカルテや書類書きに割かなければいけなくなると思います。これは、果たして患者様の方を向いた改正と言えるのでしょうか?

本来、私も含めて医師と名のつく者は、患者様を良くする為に最大限の知識や技術、機材、薬なども含めて総動員して治療にあたりたいと思っています。しかし、保険には細かいルールが決められており、たくさんの制約を受ける事になります。例えば外国でたくさん使われて高い効果を上げている薬なども、厚生省の認可がなければ使用することはできません。それだけ実績のあるクスリや材料であっても認可を受けるためには長い年月や費用、手続きなどがあります。まさに官僚機構の弊害だと言わざるを得ません。

さらに、今回ジェネリック医薬品を優先的に使用するように通達が来ました。最近テレビなどでも宣伝されていますので、「ジェネリック医薬品」という言葉を聞かれたことがある方も多いと思います。これは、何かと言いますと、クスリを開発するためにメーカーは膨大な費用がかかります。研究、開発、動物実験、臨床治験などを経て厚生省に認可されてはじめて新薬として販売されます。開発を始めてから10年前後の期間がかかるのではないでしょうか。それだけの投資をした見返りとして、開発メーカーのはある一定期間のその薬に対する特許のようなものが認められます。その期間が過ぎると、他のメーカーも同じクスリを製造販売できるようになります。当然既にあるクスリをまねて作るわけですから、余分な費用がかかりませんので、安くできます。

宣伝で「クスリ代が安くなります」という理由がここにあります。確かに、慢性疾患で飲み続けなければいけないクスリなどはジェネリックを使うメリットは大きいと思います。私も歯科でよく出す鎮痛剤はジェネリックを使っています。

では、感染症にかかった場合に処方される抗菌剤はどうでしょうか?ジェネリックが発売されるのは前述したようにある一定期間を過ぎてからになります。細菌と抗菌剤のしのぎあいには厳しいものがあり、細菌もクスリに対してだんだん「耐性」と言うものを獲得してきます。つまり、抗菌剤がだんだん効かなくなるということです。当然、古いクスリほど耐性菌が多くなり効かなくなります。その様な場合は、やはり最新のクスリで一気にたたくのが一番効果的です。場合によってはジェネリックのような古い(製品が古いのではなく、開発された時期が古いという意味です)クスリを使うと、治るものも治らず、いたずらに治療期間を長くしてしまう場合もあります。つまり、何でもかんでもジェネリックと言うのは間違いではないかと思います。

ちなみに、歯科では最初から効果の高い強いクスリを出すと指導を受けます。医科では当たり前のように最初から出される薬が歯科ではダメといわれます。そのため、あまり効き目のないクスリをだらだら出すため、耐性菌の発現を助長していると医科から指摘される事があります。皆さんは、この矛盾をどう考えられるでしょうか?我々も最初から効き目の高いクスリを出して1日も早く患者様を苦痛から解放したいと思っているのに、それができない状況なのです。苦情はぜひ厚生労働省までお願いいたします。

だんだん愚痴っぽくなってきましたので、そろそろやめますが、厚生省の役人の方々には医者は何のために存在するのか、その原点をもう一度考えていただきたいと切に思います。もちろん最低限の書類記載は必要だと思いますが、そちらが仕事の大半を占めてくるような現状は本末転倒ではないかと感じるのは私だけでしょうか?

ともかく、新しいルールをしっかり理解して実践するにはもう少し時間がかかりますので、そちらが一段落しましたら、また楽しくためになるブログにしますので、しばし猶予をいただきます。

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2006年3月24日 (金)

食べ物を美味しく食べるためには

私の師匠が咀嚼運動を説明する時、次のような例えをよく使います。

目の前に美味しそうなステーキがあります。それを食べるためには、まずナイフとフォークを使ってお肉を縦と横に切って(せん断(食べやすい大きさにします。その後、お肉を口に入れてグッと噛んで(圧断)、最後にギュッとすりつぶした時(臼磨)、お肉の中から美味しいブイヨン(肉汁)がじゅっと出てくるので、お肉の美味しさを味わう事ができます。

咀嚼は主に奥歯で行なわれますが、人間の歯では食べ物を噛むときに、先ず前述した縦切りと横切り(せん断)が一度に行なわれます。その後、上下の歯がきちんとかみ合ったときに食べ物が押しつぶされ(圧断)、上下の歯が次の咀嚼運動に移る時に食べ物がすりつぶされ(臼磨)て初めて食べ物の味を美味しく味わう事ができます。

お肉を切るときに、切れない、あるいは切れの悪いナイフを使うとうまく切れなかったり、余分な力が必要になったり、時間がかかったりします。よく切れるナイフだと最小限の力でスパッと切る事ができます。これ歯に置き換えて考えると、歯が咀嚼運動に適合していないと余分な力が歯にかかるため、歯がダメージを受けてぐらついてきたり、顎の関節に無理が来て痛みが出たり、カクカクと音が鳴るようになったり、口が開かなくなったりする事があります。

歯がゆるんでくるのは歯周病のせいだと歯科医院では説明されがちですが、実は歯の位置や形がこの咀嚼運動に調和していないため、無理が重なって歯を支える骨が溶けてきてぐらついている場合も私が見る限りではかなりあるように感じられます。特に1,2本の特定の歯のみが骨の吸収が進んでいるような場合はそうだと思います。

従来の歯周病の考えでは、歯周病は歯周病菌によって引き起こされるものですので、多少の差はあれ、お口の中全体的に進んでいくと考えられます。一部分だけ急に進行するというのは説明がつきにくくなります。咀嚼運動に原因があるとすれば、いくら歯周病の治療を行っても治らないと言う事になります。

今のかみ合わせというのは長い年月を経て出来上がったものですので、歯科治療などで極端にお口の中が変わらない限り、なじんでいる分自分が本当によく噛めているのかどうかというのは、自覚症状ではあまりわかりません。ではそれを調べるにはどうしたらよいのでしょうか?

実はここでパソコンがフリーズして、書いた記事が全部消えたとショックを受けて中断したのですが、何とか生き残っていました。中途半端な終わり方であれっ?と思われた方も多かったと思います。続きはまた次回気を取り直してまとめを書きます。

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2006年3月22日 (水)

咀嚼運動(そしゃくうんどう)とは何でしょう?

18日に東京で行なわれた日本咬合学会認定医研修会に参加してきました。熊本の朝一番では時間に間に合わないので、前日の最終で行ったため、浜松町のホテルにチェックインしたのは夜の12時前でした。(ホテルの場所がわからず、しばらく彷徨ったせいもありますが)部屋の真横をモノレールが通っており、そのむこうには何本ものJRや私鉄が朝早くから夜遅くまでひっきりなしに走っているため、二重窓にはしてあるのですが、音を完全に遮断する事はできず、あまり安眠できませんでした。

研修内容は咀嚼運動に関するもので、ただでさえ固まりがちな頭に寝不足が加わりましたので、理解するのに必死でした。

咀嚼運動(そしゃくうんどう)とは文字通り物を食べるときに行なう顎の運動です。皆さんは、歯科医院で歯を作る時に、当然物が食べやすいように調整してもらっていると思われているでしょう。では、歯科医院で行なわれる調整を思い返してみてください。(歯が丈夫で歯科医院で歯を入れたことがない方はイメージが湧きにくいと思います。ごめんなさい)

まず、赤や青の紙(咬合紙)をカチカチと噛んで、印がついた所が高いところですので、そこを専用の道具で削って行きます。何回か調整を行なうと、他の歯の当たりとほぼ均等になって違和感を感じなくなります。(歯は10ミクロンの厚さを感知するそうですので、実は非常に微妙な調整です)

次に、今度はギリギリと歯ぎしりをして下さいといわれ、横に動かした時に変な当たりや引っかかりがないように、さらに調整をくり返します。そして、違和感がなくなった時点で、きれいに研磨し直して、めでたく歯にセメントで接着して終了となります。

ここから少々難しい話になりますが、その様に精密に調整された歯を入れたにも関わらず、別に違和感や高い感じはないのに何となく食べ物が噛みにくいとおっしゃる方がいます。特に奥歯を何本もいっぺんに入れた場合にありがちです。これはなぜでしょうか?

歯科医からは、「きちんと調整してあるのでそのうち慣れる」と言われて、痛みも違和感もないので、そうなのかと何となく納得させられている場合もあると思います。でも何となく噛みにくいが、こんなものかなと、すっきりしない気分が残ります。

もう一度、歯を調整する時の事を思い浮かべて下さい。高さをあわせる時のカチカチはいいのですが、その後、歯をギリギリと動かす運動はどうでしょうか。皆さんは、今日1日で、自分で意識してその様な顎の運動を何回されたでしょうか?多分、1回もされていないと思います。だんだん頭がこんがらがって来ましたね。1回も行なわないような動きを歯科医院ではあえてさせられて調整を行ないました。これをどう考えますか?

ギリギリと動かす運動を、専門的には「限界運動」と呼びます。噛んだ位置から下顎を前後左右の動く限界の位置まで動かしますので、こう呼びます。でも、前述しましたように、1日のうちで意識してその様な運動を行なう事は通常はほとんどありません。

では、物を食べる「咀嚼運動」を調べてみると、実は全く違う動きをしています。これで、何となく噛みにくいという訴えの答えが見えてきました。つまり、歯科医院で行なう調整では、咀嚼運動にマッチした調整はできていないと言う事です。どうでしょう。皆さん驚かれたのではないでしょうか。

この咀嚼運動を理解している歯医者は、実はあまり多くないというのが現状です。我々が学校で教えられるのは前述した限界運動に基づく理論で、また、私も毎月たくさんの歯科の本を取り寄せて読んでいますが、そのほとんどが、やはり限界運動に基づいた治療です。

実は、私自身も歯科医師になって20年近くなりますが、そのことを知ったのはつい数年前です。ほとんどの歯科医師が。まだその事に気付いていないか、もしくはそれを意識した治療を行っていません。と言う事は、よく噛める、噛みやすい歯を入れていないという事になります。

咀嚼運動は物を噛むときの運動ですので、口の中で歯を調整する時に再現する事はできません。物を食べる時、下顎を意識して動かす人などいませんので、不可能です。では、どのようにすれば噛みやすい歯を作る事ができるのでしょうか。誰でも噛みやすい歯を入れたいですよね。そのあたりをまた次回書きます。かなり専門的な所ですのでわからない事がありましたら遠慮なく質問されて下さい。

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2006年3月14日 (火)

キシリトールについてパートⅢ

Q5:キシリトールを摂取していれば、虫歯にならないのですか?         生まれてから死ぬまで全ての食品の甘味料にキシリトールを使っていれば、理論上、虫歯は発生しないと考えられます。全ての食品に入っている甘味料をキシリトールに換え、2年間続いた研究では、確かにキシリトールグループでは新たな虫歯の発症は見られませんでした。しかし、現実問題として、このように全ての食品の甘味料をキシリトールに換える事は不可能です。キシリトール摂取は、虫歯予防そして口腔保健行動の一部である事を考えると、キシリトール摂取だけで虫歯にならないとは考えないで下さい。

Q6:フッ素とキシリトールはどちらが有効ですか?                フッ素は薬品で、キシリトールは食品である事をまず理解してください。効果の機序が異なりますので、「どちらかを使う」と言う選択肢ではなく、両方を上手に使ってください。低濃度のフッ素を長期間使用すること、すなわちフッ素配合歯磨剤の使用は、歯を硬くし脱灰を防ぎます。ただし、フッ素の過剰摂取を避けたい人であれば、キシリトール摂取を積極的にすすめてください。なお、フッ素にはミュータンス菌の感染予防効果はありませんので、感染予防に用いるのであれば、キシリトールを用いてください。

Q7:1日何個のガムを噛めばよいのですか?                   キシリトールをときどき、あるいは1日1回のように、少ない頻度で使用することは効果的ではありません。今まで行なわれている研究では、1日3~5回ガムを噛む事により、虫歯予防効果が現れています。量的には1日10g程度ですので、市販の100%キシリトールガムでしたら1回2個を、歯科専用のものでキシリトール含有量が多いタイプであれば、1回1個を噛むことがすすめられます。

Q8:虫歯のリスクによってキシリトールの摂取量に違いがありますか?    リスク別に摂取量を変えた研究報告は、わかりません。ただつぃ、キシリトールは、基本的に少量を長期に摂取する事により効果が現れますから、量よりも頻度が重要であると思います。摂取量は研究報告により1.5~20gくらいまで幅がありますが、多くの研究では1日あたり10g程度ですので、リスクの高い人でも低い人でも摂取量は同じと考えて下さい。

以上、3回わたってキシリトールについて述べてきました。なんとなくキシリトールが虫歯に良い事は知っているのだが、なぜ良いのか、また、どのくらいの量を摂取すればよいのかなど、あいまいだった知識を整理していただけたのではないでしょうか。

虫歯予防先進国のフィンランドでは、このキシリトールの使用と予防健診や処置の徹底によって、虫歯は激減しています。聞くところによると、学校や幼稚園などの教室に、大きな缶に入ったキシリトールガムが常備されていて、給食などを食べたらすぐガムを噛む習慣ができているそうです。(ガムもかなり安価だそうですが)

歯磨きがや、子供の仕上げ磨きがなかなか徹底できない方は、ぜひこのキシリトールを摂る習慣を付けてみてはいかがでしょうか。何度も述べられていましたが、決して特効薬ではありませんので、1回摂ればよいというものではありません。フッ素も含めて習慣化することにより、効果を発揮します。

ガムを噛むだけで、虫歯予防になるのですから、皆様も今日から実行して見ませんか?私の医院はますます暇になるかもしれませんが・・・。もちろん定期健診とクリーニングには来てくださいね。

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2006年3月10日 (金)

キシリトールについてパートⅡ

キシリトールの理解を深めるためのQ&Aを記載します。

Q1:何歳からキシリトールをすすめたらよいですか?                歯がはえてキシリトール製品が使用できるようでしたら、可能な限り早い時期に始める事をすすめます。なぜなら、歯がはえることは、ミュータンス菌の定着場所ができる事を意味します。特に、母親のミュータンスレベルが高いときには、母親だけでなく子供への応用も勧められます。また、歯の萌出前にキシリトールを使う事は、歯の健康にとって良い環境の中に歯が萌出してくる事になります。

Q2:1日のうちでいつ摂取するのですか?                     プラークpHの低下を考えると、食後や間食後のキシリトール摂取がすすめられます。これはキシリトール摂取により、プラークpHを脱灰の危険がある臨界pH以下にしない効果があるからです。ただし、キシリトール使用によりプラークの性質が、う蝕原生の低いものに変わる事も明らかになっていますので、歯を長時間磨けない時や、食事前にもすすめられます。就寝前のキシリトール摂取も良い方法だと思います。

Q3:ガム、タブレット、キシリトール配合歯磨剤のうち、どれが効果的ですか?長期的な臨床研究では、ガム、タブレット、キシリトール配合歯磨剤すべてに効果が認められています。ガムは咀嚼による唾液分泌も期待できますが、研究によると効果の差は大きくはないと出ています。いずれにせよ、効果的に使用するためには、適当な時期に長期間用いることが必要になりますので、自分で応用しやすいものを、長期的に用いるのが良いと思います。

Q4:市販されているガムと歯科医院で売られているガムの違いは?      歯科医院で販売されているものには2種類あります。成分やガムベースが市販品と異なる歯科専用と、市販品と同じガムで包装を変えた歯科医院向けの製品です。歯科専用は、市販品に比較して1粒あたりのガムの大きさが約2倍になっていて、キシリトール量も約2倍になっているもの、ガムベースを硬くして歯や修復物、義歯に付着しにくくしているもの、歯質の再石灰化促進物質が多く含まれているものなどがあります。歯科専用も歯科医院向けも、パッケージを市販品よりも大きくし、1パッケージ当たりのガム数を多くしているものがほとんどです。そのため。製造・流通コストが抑えられ、ガム1粒あたりの単価が市販品より安いのが特徴です。一方、市販されているキシリトールガムは、日本全国どこでも販売されていいるため、いつ、どこでも購入できる利点があります。製品の種類も豊富で、味やパッケージの種類が多いため、消費者の嗜好に合う製品を探しやすいのも特徴です。ただし市販品は、ガム1粒当たりに含まれているキシリトールの含有量や割合が歯科専用よりも少なく、包装もガム自体の大きさも小さいものが多いようです。そのため価格は安いのですが、ガムに含まれているキシリトールの量やガム1粒あたりの単価からすると、歯科用よりも高くなります。

あと4項目ほどありますので、また次回に記載いたします。

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2006年3月 8日 (水)

キシリトールについてパート1

キシリトールと言う言葉がここ数年であっという間に広がりました。歯の健康に役立つ食品として認められ、ガムやアメなどにもかなりの割合で配合ざれています。これは歯科から発信されて普及した数少ない物の一つです。しかし、なぜ良いのかが、もう一つしっかり把握されていない所があります。

では、このキシリトールとは何物なのでしょうか?キシリトールが食品添加物として用いられるようになってちょうど10年が経ちます。多くの先進国で1980年代から甘味料として使用されるようになりましたので、約20年遅れた事になります。

キシリトールは白樺や樫の木から採れる自然の甘味料です。甘さは砂糖と同等で、当然虫歯の原因にはならず、かえって予防する効果があります。溶ける時に熱を奪うため、清涼感のある甘味を持っています。カロリーは砂糖の75%と若干ダイエットには良いでしょう。ただ、腸管からの吸収が悪いため、一度にたくさん摂取すると下痢をする場合があるのでお気をつけ下さい。

ではどのような機序でその様な効果があるのでしょうか。

虫歯がミュータンス菌による感染症であることは、歯科医療者のみならず一般の方々にも広く知られていると思います。虫歯のでき方を簡単に言いますと、ミュータンス菌が糖分を取り込んで酸を出します。その酸によって歯が少しづつ溶けていくのが虫歯です。虫歯の発生に必要なものは「ミュータンス菌」「糖分、特に砂糖」「ある程度の時間」で、これらの要素が重なった時に初めて虫歯が発生します。ですから、それぞれに対して対策を打てば、虫歯は防げるのですが、それについてはまた機会をみてご紹介します。

キシリトールが虫歯を予防する理由は大きく2つあります。

一つは甘さを持つため、口に入れると味覚が刺激されて唾液分泌を促進します。ガムの場合はさらに咬む事によりさらに促進します。唾液の中にはカルシウムなどの成分が入っているため、歯の再石灰化を促進しますので、初期の虫歯でしたら自然治癒する場合もあります。つまり人間は自分で自分の虫歯を治すの力を元々持ち合わせているということです。昔は今ほど砂糖がいたる所に氾濫しているような事はなかたので、虫歯はめずらしい病気だったのでしょう。

もう一つは、キシリトールも糖ですのでミュータンス菌に取り込まれるのですが、ミュータンス菌はキシリト―ツールを分解してエネルギーにすることができません。それどころか代謝を阻害してエネルギーを消耗させることができます。ミュータンス菌はプラーク(歯垢)を形成して増えていきますが、キシリトールによってプラークの粘張度が低くなるため、ブラッシングなどで落としやすくなります。

以上のような理由でキシリトールが虫歯予防に有効に作用する事がお分かりいただけたと思います。では、北欧では、どのように使われて効果を上げているのか、そのあたりも含めて次回お話します。

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2006年3月 4日 (土)

インプラント治療の考え方パートⅡ

全ての歯はお互いに接触してバランスを保っています。丁度、石でできためがね橋のようなもので、アーチの中の石を一つでも取ると、全体が崩れてしまいます。歯も同じで、一部を抜きっぱなしにして放置していると、ぜんたいの歯並びやかみ合わせが崩れてしまいます。そのため、何らかの方法で歯のないところを補う必要が出てきます。

前回、インプラント治療が選択できない場合の歯の欠損部の治療法を書きました。「ブリッジ」、「入れ歯」、それぞれメリット、デメリットがあることがわかっていただけたと思います。

そこに、第3の選択肢として「インプラント」という選択肢が出てきました。インプラントは歯の抜けた所の骨に植え込まれますので、あたかもそこに新しい歯が生えたような状態になります。そのため、ブリッジのように他の歯を削る必要もありませんし、入れ歯の様な取り外しや清掃の煩雑さもなくなります。

インプラントは顎の骨に一旦しっかり着けば、かなり強固になります。1本のインプラントにひもをかけて引っ張ると、体が充分に持ち上がるくらいくっつきます。そのため、咬む力にも耐えられますし、結構汚れにも強い感触を得ています。

もし自分の歯が1本なくなった時にどうするだろうと考えた時、以前は1本分の小さな入れ歯にするだろうと思っていました。それは、やはり歯を削るというリスクをなるべく避けたいからです。また、インプラントは咬む力をしっかりと受け止める事ができますので、他の歯の負担が増えたりしません。そのため、かみ合わせの安定を保つ事ができ、他の歯の過超負担も避ける事ができます。以前は入れ歯の取り外しの煩雑さや多少の違和感は我慢するだろうと思っていました。今なら迷わずインプラント治療を選択します。

では、インプラント治療が全て良いかというと、やはり欠点もあります。その中で皆様が一番気にされるのが、値段と手術です。インプラント治療は健康保険適応外ですので、全て実費となります。材料代や歯の作製費用が結構かかりますので、治療費が高額になります。使っているインプラントの種類や医院がある地域(都会ほど高額になる傾向があります)などによっても変わりますので、詳しくはかかりつけの歯科医院にお尋ねください。

手術は乱暴な言い方をしますと、歯を抜く反対のようなものです。インプラントが入るスペースを確保するため、多少骨を専用の器械とドリルで削ります。処置そのものは麻酔下(局所麻酔です。大がかりなものは全身麻酔になるケースもあります)で行ないますので、痛みはありません。術後、個人差がありますが、腫れや痛みを伴う場合もあります。しかし、私の経験では寝られないほど痛かったという方はおられず、痛み止めの服用で充分対応できる程度のものでした。中には全く痛みを感じなかったという方もいらっしゃいます。もちろん私はたくさんの数のインプラントを全身麻酔下で殖立するような大がかりな手術はしませんので、その程度で収まっていると言える所もあると思います。

インプラントは顎の骨に埋め込みますので、当然ですが埋め込むのに充分な骨がなければできません。歯周病などで歯がグラグラしてくると、歯を支えている骨がどんどんなくなってきます。ギリギリまで我慢すると、いざインプラントを考えようと思っても骨の量の問題で、できないという場合が出てきます。今は骨を増やすような治療も開発されて来ましたが、特殊な治療になりますので、インプラントの手術に先駆けて骨を増やすような手術が別に必要になったり、それに伴う新たな出費もかかってきます。

また、糖尿病、骨粗鬆症、などなど年齢が上がっていくと様々な生活習慣病が出てきます。それが原因で手術ができない、あるいは治りや予後が悪くなる場合もあります。あまり高齢の方にも勧められません。

多少、歯の欠損があっても人間には適応力がありますので、慣れてしまえば食事などにもさほど支障はなく(前歯の場合は皆さん飛んで来られますが)、多くの方が「もっと悪くなってからインプラントを考える」と言われます。お気持ちはよく解るのですが、果たしてそれがベストの選択でしょうか?

不幸にして歯が1本なくなったとき、すぐにインプラント処置をすれば、治療は当然1本分で済みますので、手術も簡単で費用も最低限で済みます。また、他の歯の負担が増えませんので、他の歯を守ると言う意味でもベストです。

多数歯の欠損になると、必要なインプラントの本数も増えますので手術も大がかりになり、費用も高額になります。また、残っている歯の過超負担が起り、傷んできます。多数歯欠損になるとかみ合わせの安定も損なわれますので、かみ合わせのズレが起り、それを起因とする様々な全身症状が現れます。症状が歯と直接関係ないため、様々な病院を回って検査してもどこも悪くないのに体調は最悪という状況を招きます。そのあたりの事は、このブログに以前詳しく書いていますので、一度目を通されて下さい。

また、体は使わないと退化します。片足を骨折してギブスに入ってしばらく使わないでいると、両足の太さが極端に違ってきます。ギブスに入っていた方は細くなっています。顎の骨も、歯がなくなると骨に機能圧がかからなくなりますので、吸収していきます。それが極端に進むと、前述したように、いざインプラントをしようと思っても、必要な骨が無いと言う理由で断念せざるを得ない場合も出てきます。

私は決してインプラントを強引に進めているわけではありません。実際私の診療室でもインプラント治療を希望される方は、まだまだごく少数です。しかし、インプラント治療が安定してきて予後もかなり良くなりましたので、責任を持って勧められる治療となった今、ぜひ選択肢の一つに入れていただければと思います。長い目で見ると、治療費は決して安いとは言いませんが、自分の健康の維持を考えると高くはないと思うのですが、いかがでしょうか?

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