インプラントは予防治療パートⅡ
前回、話がインプラントからそれてしまいましたが、本題を話す前に是非必要な知識でした。
歯科医師の私が言うのも何ですが、歯は極力削らないに越した事はありません。「ではお前は毎日何をやっているんだ」と言われそうですが、もちろん必要があって削っている訳で、私自身は極力削らないように、また、削る時期をなるべく先延ばしにするように心がけています。
不幸にして歯をなくした時、皆さんはその部分をどうされるでしょうか?何らかの方法で欠損を補おうと考えられるでしょう。たまに放置される方もいらっしゃいます。他の歯がある程度そろっていれば、人間は適応力がありますので、食べることに関しては、さほど苦労はしません。だからといって、放置していると、気付かないうちに大変な事が起って来ます。
抜いたところを放置していると、その両隣の歯がゆるんで、抜いた部分に倒れてきます。すると、歯のすき間がゆるくなり、物が詰まりやすくなってそこからむし歯が発生します。また、歯が倒れてくると、反対側の歯と斜めに噛むようになります。歯は真上からの力には強いのですが、斜めとか横とかの力が加わると、ゆるんできます。
つまり、噛むたびに斜めの力がかかるようになり、その歯を支えている骨が破壊され、ますます倒れ方が強くなり、最後は歯がだめになるという悪循環に入っていきます。
また、歯は噛んでいるのでその場所にじっとしていますが、歯が抜けてかみ合う相手がいなくなると、どんどん伸びてきます。その結果、そこのすき間がゆるくなり、むし歯の原因になったり、かみ合わせがおかしくなって、顎や関節が痛くなったり、頭痛、首や肩の凝り、腰の痛み、精神状態にまで影響してきます。つまり、放置する事は最悪です。
では、欠損部を何らかの方法で回復するためにはどのような方法があるのでしょうか?保険治療に限定されると、「ブリッジ」と「入れ歯」の二通りの選択しかできません。
ブリッジは1,2本の少数欠損に適応されます。ブリッジつまり日本語訳すると「橋」ということです。読んで字のごとく、欠損部の両端の歯を削って、橋をかけるように連結してセメントで着けてしまう物です。欠損の数が多くなると、できない場合が出てきます。
入れ歯は残っている歯にバネのようなもので(クラスプといいます)引っ掛けて停めておくもので、1本欠損から総入れ歯まで、どのような状態でも基本的に作る事ができます。取り外し式になりますので、毎日はずして清掃作業が必要となります。また、歯ぐきに乗っている状態ですので、咬む力は弱くなります。俗説ですが、どんな名人が作っても、自分の歯の3分の1噛めれば良い方だと言われています。
これらの治療をすれば欠損部は補われますので、放置するよりはもちろん良いと思います。しかし、それぞれ問題を含んでいます。
ある統計を見ると、ブリッジの平均対応年数は8年前後となっています。つまり、8年後には何らかのトラブルを抱えてやりかえという事態が生じます。何故悪くなるかは、また機会を見て書きますが、ともかくやりかえるたびに歯は傷んで行きますので、そのうち歯がもたなくなって抜歯という事になり、欠損が拡大していきます。
入れ歯の場合は対応年数はもっと短くなります。バネをかけますので、その歯の負担が大きくなり、また、汚れも溜まりやすく、むし歯や歯周病に罹患しやすくなります。よく、「バネをかけた歯から悪くなる」と言われますが、ある程度入れ歯の宿命的な所もあります。また、取り外しの面倒さや、違和感からせっかく作ったにもかかわらず、使っていただけない場合もあります。また、どうしても自分の歯の方がかみやすいので、そこに力が集中して新たな問題を生じる事も多々あります。
つまり、ブリッジや入れ歯は、欠損を放置するよりはもちろん有効ですが、お口の中の崩壊を防ぐ事は残念ながらできず、そのスピードを弱める効果に留まるような気がします。
歯がなくなっていく事を「老化」と捉える方もいらっしゃいますが、私はれっきとした病気であると認識しています。
そこで、インプラントという選択肢が出てきます。インプラントについては詳しく述べませんが、歯が欠損した所にインプラント治療を行うことによって、そこに自分の歯が新しく生えてきたような状態になります。インプラントが「第3の歯」と呼ばれる由縁です。そのため、ブリッジや入れ歯を使う必要がなく、余分な力が他の歯にかかりませんし、他の歯を削る必要がありませんので、お口の中が安定した状態を保つ事ができます。
骨にしっかり着いたインプラントは、その咬む力に耐える能力は自分の歯を超えるとも言われています。
私自身が不幸にして歯を失ったら、迷うことなくインプラント治療を選択します。よく、「もっと悪くなってから考える」という方がいらっしゃいますが、その時は、他の残っている歯も今以上にダメージを受けており、かみ合わせのズレなども生じ、必要なインプラントの数も増えて手術も大変になります。また、歯を抜いた所の骨は萎縮していきますので、いざインプラントをしようと決心しても、必要な骨が無ければできないという事態も生じます。
以上のような観点から、インプラントはお口の中の崩壊を防ぐ予防処置といえます。保険は効きませんが、長い目で見て判断してみて下さい。
| 固定リンク | コメント (0) | トラックバック (0)
最近のコメント