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2007年2月26日 (月)

キレイ好きが日本人を滅ぼす?

花粉症の方には憂鬱な季節がやってきました。街中ではマスクをしている人が目立ってきました。私自身は花粉症ではないので、その苦しみを実感する事はできませんが、端で見ているだけでも辛そうです。

現在の日本人には、アトピー性皮膚炎、気管支ぜんそく、花粉症などのいわゆるアレルギー性疾患が非常に増えています。

幼稚園、小学校、中学校の生徒たちのアトピー性皮膚炎、気管支ぜんそくは、10年前の2倍に達しているそうです。花粉症に至っては、実に5人に1人以上かかっています。アレルギー性疾患は、今や「国民病」と言われるようになりました。

しかし、このアレルギー性疾患は、実は40年前の日本にはほとんど無かった病気でした。わたしももうすぐ43歳になりますが、小学校の頃など、たしかに周りを見回してもアレルギーの子どもなどほとんどいなかったような気がします。

その原因として思い浮かぶのが、公害や農薬、食品添加物の影響や住環境の変化、食事の欧米化などがあります。確かにこれらも人体に大きな影響を与えていることは容易に想像できます。しかし、諸外国の中で似たような環境にあるにもかかわらず、日本ほどアレルギー疾患が蔓延している国はほとんどありません。すると、他にも原因がありそうです。

東京医科歯科大学の教授に藤田紘一郎先生という方がいらっしゃいます。この方は「寄生虫博士」として非常に有名な方で、たくさんの著作もありますし、講演会もされています。この先生がユニークな自説を展開されていますので、ご紹介いたします。

先生いわく、日本人は回虫などの寄生虫を体から徹底的に駆除し、私達を守ってくれている常在菌までも追放した「キレイ社会」を作ってしまった結果がアレルギー性疾患を増加させているそうです。

先生はインドネシアのカリマンタン島の子供たちを30年間観察しているそうです。そこの子供たちはうんちが流れている河で泳いだり遊んだりしているそうです。最初の頃はそんな事をしていると「彼らは必ず病気になる」と思ったそうですが、実際は日本の子供たちよりはるかに元気で、瞳は輝き、皮膚は黒光りしているそうです。そして、アレルギー疾患に苦しむ子どもがほとんどいないそうです。

では、その違いはどこにあるかというと、調べてみるとそこの子供達にはほぼ全員に回虫などの寄生虫が感染しているそうで、つまり「寄生虫がアレルギー反応を抑制している」という結論に達し、研究を重ねるに連れて確信を深めたそうです。

1950年までの日本人の回虫感染率は常に50%前後でした。つまり、日本人は回虫と共生して来たわけです。しかし、第2次世界大戦後、日本は国をあげて回虫撲滅運動を開始しました。その結果、回虫の感染率は1960年には20%を切り、1965年には5パーセント以下なりました。じつは、この1965年を境にアトピー性皮膚炎、気管支ぜんそく、花粉症などのアレルギー疾患が発症するようになってきました。

研究の結果、寄生虫からアレルギー反応を抑える物質を取り出すことに成功されたそうです。寄生虫の分泌、排出液中に存在するタンパク質がアレルギーを抑えていたそうです。

また、研究を進めると、寄生虫だけではなく、細菌やウイルスも人間に感染するとアレルギー反応を抑える事が明らかになってきました。

人間の体は決して無菌状態ではありません、常に常在菌というものが体の各所にいて、実はそれらに守られています。

皮膚には表皮ブドウ球菌など10種類の菌がいて、守ってくれています。女性の膣の中にはデーデルライン乳酸菌という菌がいて、免疫力をつけたりビタミンを合成したりしてくれています。また、腸内には皆様も良くご存知のビフィズス菌、乳酸菌、大腸菌、ウエルシュ菌などが様々な仕事をしてくれています。

ところが、今の日本社会は「抗菌グッズ」があふれています。テレビでは毎日のように「抗菌」「除菌」「消臭」のコマーシャルを流し続けています。いまやボールペンから下着に至るまで、抗菌をうたってて、抗菌グッズに触れずに生活する事は、ほぼ不可能になっています。

日本人は「洗いすぎ」です。洗うときれいになると思っていますが、実は洗いすぎると汚くなるのです。きれいな肌は皮膚の表面に常在菌がいるからです。この常在菌は、皮膚の脂肪をエサにして、脂肪酸という「酸性の膜」を作って皮膚を守っています。この膜が、外からのアレルゲンや悪い菌などが皮膚の中に入るのを防いでいます。そして、皮膚内部の水分が蒸発しないようにしています。ですから「しっとりした肌」が保たれるのです。

しかし、洗えばきれいになると思っている日本人はせっせと体を洗っています。洗いすぎは皮膚の表面にいる常在菌を洗い流してしまいます。すると、皮膚の角質層がバラバラとなり、アレルゲンが進入し、アトピー性皮膚炎になりやすくなります。また、皮膚の中の水分が蒸発して「乾燥肌」になるというわけです。

免疫学で最近有名な安保徹先生も、風呂に入っても、石鹸やシャンプーは週に1回程度しか使わず、それ以外は軽く洗い流す程度で充分だとおっしゃっていました。

その他、抗菌剤や殺菌剤の多用も目につくところで、悪い菌だけでなく、よい菌も一緒に駆除してしまいがちです。私も必要最低限度しかクスリは出さないようにしています。(自己判断でそれも飲んでいただけない場合もあり、それは困るのですが・・・)

ちなみに藤田先生はわざと体の中に「サナダムシ」という数メートルにもなる回虫を飼われているそうです。

除菌、殺菌という概念から共生という優しい概念に変ると、アレルギー疾患も減るのかもしれません。

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2007年2月16日 (金)

よく噛めるために

前回、咀嚼運動(そしゃくうんどう)に基づいての歯科治療が、残念ながらほとんど行われていないという事を書きました。その結果、当然ながら、せっかく歯を治療したのだけれど何となく噛みにくいという状況がかなりの頻度で発生していると考えられます。

咀嚼運動というものは、食べ物が口の中に入ってから初めて起こる無意識の反射運動で、意識的に再現する事はほとんど不可能です。つまり、歯科医院で歯を調整する時に、口の中で咀嚼運動に適合した調整を行なうことはできないという事です。

では、どうしたらよいのでしょうか・・・?

実は、様々な研究の結果、理想的な咀嚼運動はどの方もほとんど同じ様な動きをする事が解っています。人間の脳の中には、元々理想的な動きがインプットされているという事です。

また、異常な動きをするときは、どの歯のどの部分が邪魔をしているのでその様な異常な動きをしているというのも、専用の機械や器具を使って解析すればはっきりと解ります。

顎の動きを解析するのは、私はシロナソグラフというコンピューターを使った機械を使用します。これは、下の前歯の所に非常に小さな磁石をセンサーとして取り付けて、ガムなどを噛んでもらい、実際の顎の動きを頭に取り付けたアンテナで3次元的に解析します。それと、歯の模型を専用の器械(咬合器)に取り付けて、シロナソグラフのデーターと照らし合わせながらどの歯が悪さをしているのかを分析します。

もちろん、歯を作る時も同じ様な操作を行い、理想的な咀嚼運動ができるように作製していきます。それによって、非常に噛みやすい歯が出来上がります。また、噛みやすいということは、歯に対する負担も減るということです。

包丁に例えると、切れの悪い包丁を使っていると、お肉などを切るときに、必要以上に強い力や不自然な動き(前後にゆすったり、強くたたきつけたり)をしてしまいます。結果、刃こぼれを起こしたり、筋肉が疲労したりします。逆に、よく切れる包丁だと、最小限の力でスパッと切れますので、作業効率も上がり、包丁も長持ちします。

歯も全く同じ事が当てはまります。歯が欠けたり、銀歯がはずれたり、食べていると顎がだるくなったり、顎関節症になったり、力が集中している歯の骨が融けてだめになったり、知覚過敏を起こしたりと、今までの歯科の常識では一見かみ合わせや咀嚼運動と、無関係とされていた症状が、実は咀嚼運動の不調和から起こる事もある事が解ってきました。

しかし、その認識を持っている歯科医師は残念ながら非常に少数です。

皆様は、まさか自分が実はあまり噛めていないなどとは思っていらっしゃらないと思います。それは、今の噛み合わせで長年過ごしていますので、それが当たり前になってしまっているからです。ところが、何かの機会に咀嚼運動に適したように歯を修正すると、皆さんビックリされます。そして、一様に「本当に噛めるという事が良くわかりました」とおしゃいます。

誰でも今より良く噛めるようにすることは可能です。しかし、そのためには問題点もあります。それをまた次の機会に書きたいと思います。

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