子供達の健康を守るために
先日、私が校医をしている小学校で配布したものです。
今の子供(大人も)が持つ3つの悪習慣が病気を作る
文明国の中で、口呼吸が一番多いのが日本人です。また、食べる時間が一番短いのも日本人、睡眠時間が最も短いのも日本人です。
眠 3つの悪習慣
・ 横向きやうつ伏せで寝る事
人間の頭は約5kgあります。横向き寝、うつ伏せ寝の場合、歯やあごに直接圧力がかかります。歯の矯正治療で1本の歯にかかる力は100グラム以下です。これくらいの力でも持続的にかかれば歯は動きます。つまり、寝相によって歯列矯正の数倍の力がかかる事になり、これが歯列やあごの変形につながり、それが全身のゆがみや筋肉のこり、痛みにつながります。
・ 片側で噛むこと
片噛みを続けると、咬む側の頬は咀嚼運動(そしゃくうんどう)によって引き締まり、使わない側の頬は締りがなくなって、左右非対称になります。これが長く続くと、筋肉に引っ張られてあごや首の骨が曲がり、それに連動して背骨や骨盤と全身のゆがみにつながります。
また、片噛みで噛む回数が減ると、唾液の分泌が減ったり、過食につながっ
たりするので、それが新たな病気につながることがあります。しっかり噛ん
で唾液が食物に十分行き渡ると、食物の中に含まれる発癌物質のほとんどが
無毒化されるとも言われています。唾液の量が不十分だと虫歯や歯周病が一
気に進行します。
・ 口で呼吸する事
のどには扁桃腺などによって構成される「ワルダイエル扁桃リンパ輪」という体の免疫機構の中でも最も重要な組織があります。口呼吸を続けると、そこの組織がだめになり、結果、免疫機能の低下によって様々な病気が引き起こされます。現代人は環境汚染や食遺品添加物などの影響で体内に入ってくる異物の処理にただでさえ免疫機構が疲労していると考えられますので、免疫機能の低下が加速します。これが、様々な病気を引き起こします。
睡眠について
「質のよい睡眠を3~4時間取れば十分です」という方々がいらっしゃいま
す。それは本当なのでしょうか?そこには体と重力の関係が考慮されていま
せん。
人間は、1Gという重力に逆らって立ったり座ったりしているだけで、かな
りのエネルギーを消耗しています。まして、激しい運動などをした場合は言
うまでもありません。
人間の体は生まれたときに約40兆個、成人で約60兆個の細胞でできてい
ます。大雑把な言い方をすると、1日約1兆個の細胞が入れ替わり、60日
で特殊な細胞を除けば新しい細胞に入れ替わります。これを「新陳代謝」と
いいます。これが盛んに行われるのが寝ている間です。
よく、「しっかり寝ないと背が伸びない」と言われますが、一理あります。
特に免疫に関係する血液細胞は、骨髄や関節頭などで作られますが、起きて
活動している間はエネルギーが体を維持、支持する方に使われるため、造血
の方まで手が回りません。
「骨休め」という言葉があります。これは、先人が長年の体験の中で体感し
てできた言葉なのでしょうが、免疫学から言ってもずばり的を射ています。
人間の体は横になって骨組織が重力から解放されることによって、骨髄の中
で造血のスイッチが入るようになっています。この事を無視していると、血
液の病気(再生不良性貧血、血小板減少症、白血球減少症、悪性リンパ腫、
白血病など)にかかりやすくなります。これに口呼吸のクセがあるとさらに
加速します。
病人が一日中横になっているのは何故でしょうか?この重力との関係を考え
ると答えは明確です。
人間は、横になって体の組織を重力から解放してやらないと、治癒が促進さ
れないからです。
動物は、病気や怪我をした時は、本能的に治るまでひたすらじっとして回復
を待ちます。薬などでごまかして、いたずらに動き回るのは、どうやら人間
だけのようです。
また、昔から「温泉療法」というものがあります。これは、温泉そのものの
成分による効能もあるとは思いますが、前述したように、温泉やお風呂に入
ると重力から開放され(水中では重力の影響が約6分の1に減ります)、さ
らに体が温められる事によって新陳代謝が促進される事が大きいと思われま
す。
日本人の「お風呂に入って湯船にゆっくりつかる」という習慣は、身体の事
を考えると素晴らしい事です。最近は、シャワーだけで済ませる方が増えて
いるようですが、ぜひゆっくり湯船に浸かって、身体をリフレッシュしてく
ださい。
歯並びについて
歯が生えてくる時に、なぜ今の場所に今の状態で生えてくるのでしょうか?
口の中は、一見広い空間が開いているようですが、実はそうではありませ
ん。外側は唇と頬で、内側は舌で埋められており、空間はほとんどないのが
実情です。もし、空間が空いていたら食べ物はそこにたまってしまいますの
で、歯の上に乗らず、うまく噛む事ができません。
舌癌などで、舌を切除した方は、物がうまく歯に乗せられないので噛む事が
できず、流動食をのどに流し込むしかないのは、この理屈からです。
歯が生え始めると、唇や頬、舌に当たりだします。そして、外側からと内側
からと押されながら、その力のバランスが取れるところに安定します。
今の子供たちは、あまり固いものを食べないとよく言われます。また、政府
が母乳で育てなさいとの答申を出して、反発をくらっていますが、統計的に
見ると確かに母乳による育児の割合や期間が昔に比べて減っています。
哺乳ビンに比べて母乳を飲むためには、赤ちゃんはものすごく口唇や頬、舌
の力を使います。それは冬でも汗をかくくらいの運動量です。また、欧米で
は3,4歳くらいまでおしゃぶりを使いますが、日本はかなり早い時期に離
乳を勧めたり、おしゃぶりを止めさせたりします。これは、口呼吸を誘発す
る事にもつながります。
その様な理由から、舌が鍛えられずに力が弱まり、歯が舌の方向、つまり内
側へ倒れて生える傾向にあります。
すると、歯の並ぶスペースが小さくなって顎の骨に歯が並びきれず、歯並び
が悪くなるのはもちろん、舌が下の歯の内側に収まりきれなくなります。す
ると舌が歯の上に乗ってきて、気道を狭くするようになり、呼吸がしにくく
なります。そのため、気道を空けるために、無意識に下顎を前に突き出すよ
うな姿勢になります。だから、今の子供たちは猫背に見えます。
また、その姿勢の影響で首がゆがみ、それが全身のゆがみにつながり、姿勢
が悪くなります。
また、いつも酸欠気味なので、顔にしまりがなく、目に力がなく、子供なの
に疲れやすい、元気がないといった症状につながります。
今の矯正治療は、ほとんどが永久歯に生え変わってから上下左右1本ずつ歯
を抜いて、そのスペースを利用して歯を並べていきます。という事は、元々
狭い歯列をさらに狭くする事につながります。この事を皆様はどう考えられ
るでしょうか?
事実、抜歯を伴う矯正治療後に体調を崩している方がいらっしゃるのも事実
です。なるべくならば、抜歯をせずに、済ませたいものです。しかし、抜歯
したくないからといって歯列不正を放置していると、結局歯列の狭窄から舌
の収まる場所がなくなりますので、結果は同じになります。
歯を抜かずに(結果的に抜歯を避けられない場合もありますが)、顎の骨を
広げて歯を並べるスペースを作るような矯正の方法もあります。これは、
「床矯正」と呼ばれるもので、小児歯科を中心に行われています。ヨーロッ
パでは盛んに行われているのですが、アメリカでは抜歯矯正が盛んなため、
日本もそれに追従してきたのが現状です。
先日の歯科検診を行って、一般的な学校歯科の検診基準での歯列不整にはあ
てはまらないが、前述した舌との関連を元にした基準で判断すると、少なく
見積もっても半数前後の子供たちが、将来的に何らかの歯列不整とそれに伴
う舌の位置異常を引き起こすだろう、あるいは既にその徴候が見られると感
じました。
ここの所は、歯科医師の中でも見解が分かれるところですので、あくまで私
個人の意見として聞いておいてください。詳しくは、かかりつけの歯科医師
に相談されてみて下さい。
最後に
私はここ数年、歯科疾患と全身健康との関連をテーマに研究を続けておりま
す。最近は、一見歯科とは無縁のような病気が歯科治療で軽快したり、治癒
したりしています。本日書いた内容も、その中のほんの一部です。また機会
があれば、皆様の役に立つ情報を提供していきたいと思います。
とにかく、体が健康でなければ気力も沸いて来ません。
私事で恐縮ですが、私の父は高校の国語の教師をしておりました。とある病
気で入院した時、日頃は忙しいのでゆっくり本でも読んでもらおうと数冊差
し入れをしたのですが、結局1冊も読めなかったと聞きました。やはり、健
全な体に健全な精神が宿るのだと改めて痛感した覚えがあります。
ぜひ、付属小の生徒全員が、元気はつらつとした小学生であっていただきた
いと思います。
私自身、学校歯科医師として、いつでもご相談等に応じますので、今日の内
容に関わらず、歯科に関して解らないことがありましたらお気軽にお尋ね下
さい。
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